【テンプレート書き方解説あり】訪問介護事業者のためのBCP(業務継続計画)策定ポイント徹底解説 ~自然災害編 その2(平常時の対応、他施設・地域連携、固有シート)~

自然災害BCPの前記事、その1(リンクはこちら)では、BCPという計画の「考え方」や目標、被害想定などを、「1.総論」の作成例とともにご紹介しました。
その2では、『災害が発生する前に、準備しておくべき』とされていること、厚生労働省のひな形で言えば「2.平常時の対応」「4.他施設との連携」「5.地域連携」について、その1の記事と同様に私なりの解釈で書き方を述べてみます。
また、事業別作成を求められている「固有シート」の、訪問サービス編も、平常時に決めておくべき内容が多く含まれているため、ここで一緒に説明を試みます。
本資料は、公開されている行政文書や制度について一般的な内容を解説したものであり、
特定の事案についての法律的助言を目的としたものではありません。
実際の適用や個別の判断については、弁護士その他の専門家にご相談ください。
本資料の内容に基づいて行動された結果について、当方は責任を負いかねます。あらかじめご了承下さい。
【自然災害】平常時の対応で検討しておくこと
前記事「その1」と同様、項目ごとに一つずつ、記入内容を説明します。
厚労省のひな形に挙げられている項目は
〇共通ひな形より
2 平常時の対応
2.1 建物・設備の安全対策
(1)人が常駐する場所の耐震措置 / (2)設備の耐震措置 / (3)水害対策
2.2~2.8 各種インフラ、備蓄品等の対策
①電気、②ガス、③水道(飲料水・生活用水)、
④通信(固定・携帯電話)、
⑤情報システム(PC・プリンター・サーバ・Wi-Fi 機器等)、
⑥衛生面(トイレ等)、
⑦必要品(被災時の備蓄品や避難グッズ等)
2.9 資金手当て
─── ─── ─── ─── ───
4.他施設との連携
5.地域との連携
■地震+感染症の場合における再検討事項
■水害+感染症の場合における再検討事項
─── ─── ─── ─── ───
〇固有ひな形より
B.自然災害ひな型(サービス固有) 訪問サービス固有
(1)平時からの対応
(2)災害が予想される場合の対応
(3)災害発生時の対応(※次記事「その3」でも使用(照らし合わせをします)。3のリンクはこちら)
です。
また、この厚生労働省のひな形2種等のリンク先と、公的な記入の支援資料である中小企業庁の解説リンク先を、ここでもお伝えしておきます。
●厚生労働省 「介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修」
作成の土台とも言える介護事業BCPのガイドラインと、各種ひな形のページ。動画による手順紹介は、過去にご覧になった方も多いと思います。改定のタイミングで見直してみるのもおすすめです。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/douga_00002.html
●経済産業省中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針」
上記、厚労省のひな形を元に、入門・基本・中級・上級に分けて項目の内容を解説。説明文がやや硬めではあるものの、初めての人でも無理なく段階を踏んで内容を深められるよう、工夫されています。
https://www.chusho.meti.go.jp/BCP/index.html
BCP共通ひな形「2.平常時の対応」の記入
2.平常時の対応
この枠は、ひな形等での指定が特にありません。なので、平常時にやっておくべき対策の計画やメモ、心得など、事業所にとって必要であろう情報をまとめておくのもよいと思います。
例)
災害時にできるだけ早く事業を再開するため、下記の年間計画を着実に実施
2月 机上訓練(スタッフ全員へ実施)
3月 1・2階倉庫の備蓄品 賞味期限と防災品の個数確認(スタッフ数の変動に注意)
6月 建屋・屋内チェック(雨どい・排水、家具転倒防止具のゆるみがないかも忘れず確認)
9月 避難訓練・防災訓練/〇〇市災害対策会合出席(年1回)
10月 BCP見直し(感染症) ※国や自治体からの新情報に合わせ内容更新
11月 BCP見直し(自然災害) ※ハザードマップも確認・更新
12月 △△地区・■■地区合同災害対応策検討会出席
2.1 建物・設備の安全対策
(1)人が常駐する場所の耐震措置 / (2)設備の耐震措置 / (3)水害対策
事業所の建物は「建築された年」で取るべき耐震措置が変わるので、事前調査が必要です。BCPにて策定し、対策しておくべき、とされている耐震措置関連は以下の4つです。
①建物関連/事前調査で専門家の診断を受け、結果に応じた対策を着実に実施
②什器・家具・家電類・その他の配置物/落下・転倒・破損防止対策
③建物外インフラ施設(電気・水道・ガス等)/転倒・破損防止対策
④水害対策(水害危険地域の場合に検討が必要)/逆流防止対策など
また、設備等に関しては、定期的な日常点検の実施が求められています。各対策方法は、ひな形の別紙「補足9」へまとめます。
訪問介護の場合、事務所は賃貸借契約でテナント入居しているケースが多いと思います。つまり建物関連の対策は貸主、または管理会社と協力して行うこととなりますので、そちらとの相談、連絡等、手配も必要です。
実際の災害時に必要な連携ができるよう、管理者側との協力体制を、平常時のうちに構築しておきましょう。
対策の一部を、記入例として挙げておきます。対策が完了したら、忘れずに情報を更新しておきましょう。
例)
各種耐震措置・対策
建物関連
対象 | 対応策 | 備考 |
躯体(柱、壁、床) | 柱の補強、X型補強を行う | 予算化が必要 |
什器(家具、キャビネット・机)、パソコン等
対象 | 対応策 | 備考 |
事務所の什器 | キャビネットは転倒防止のため壁に固定する | |
食堂の食器棚 | 壁を補強してから転倒防止のため、壁に固定する ガラス飛散防止フィルムの貼付け |
建物外部の施設 ライフラインに関係するインフラ
対象 | 対応策 | 備考 |
受水槽 | 土砂崩れで倒壊の可能性あり。防護壁を設置 | 予算化が必要 |
LPガス | LPガスボンベの固定を強化する |
水害対策関連
対象 | 対応策 | 備考 |
出入口 | 建物入口に止水板・防水扉を配備する | 予算化が必要 |
逆流防止 | 風呂、トイレ等の排水溝からの逆流防止弁を設置する | 予算化が必要 |
2.2~2.8 各種インフラ、備蓄品等の管理と対策
災害時に備え、代替品や別の方法を準備すべきことについて、それぞれ一覧化していくようです。
さらに1年に一度以上状況をチェックして、準備を充実できるよう見直します。
ひな形の項目は、
①電気、②ガス、③水道(飲料水・生活用水)
④通信(固定・携帯電話)
⑤情報システム(PC・プリンター・サーバ・Wi-Fi機器等)
⑥衛生面(トイレ等)
⑦必要品(被災時の備蓄品や避難グッズ等)
となっています。
記入する内容は、まず①~⑥が「稼働させるべき設備及び必要な備品」と「代替策」です。
ひな形では、別シート「補足10」と「【様式6】- 災害」にて、一覧表を作成しています。(【様式6】は備蓄品管理リスト)。
具体的には、この2種類のシートへ
・復旧するまでの備品・代替品・代替策、その準備・進捗状況
・備品の安全な置き場所の確保、破損対策、代替策、その準備の度合い
・備蓄品の個数や期限・状態確認
を書き込みます。見直しが必要なものは、備考欄へその内容を記入します。
この①~⑥の記入は、誰が見ても理解できるよう、必要な項目や状況をなるべく分かりやすく、細かく記入しておくのが良いと思います。表に続く本文枠内は、事業所として注意すべきポイントや、ルールを定めた理由などの総論を述べればよいようです。
ケア21では『災害時の「慌てている心理状態」で読んだとしても、①~⑥の内容がすぐ把握できるように』と考え、内容の書き方を極力、簡素化しています。
また、BCPの書類や備蓄品等、災害時に実際、必要な書類・物品の保管場所は、誰にでも分かる位置表示を工夫しつつ、表内での「場所の示し方(書き方)」にも気を配るようにしています。
同様に、⑦の必要品は、別シート「【様式6】- 災害」にて、準備している(すべき)備品の状況を書き、本文枠ではその管理ルールなどを述べればよいようです。
これらの記入はすべて、厚労省のひな形をもとに、自事業所の備品名・備蓄品名へと変更・追加していけばよいので、2.2~2.8の例示は省略します。
なお、備蓄品の期限等の管理と表の内容の見直しは、必ず年1回以上実施して、すべて記録に残していきましょう。見直す前の「旧バージョンの情報」も、削除せずに数年分、保管をおすすめします。
将来、自治体による監査で、「PDCAサイクル実施」の記録として使えますし、内容を見直していればPDCAの積み重ねである「BCM」で運用を継続している証拠として、活用できるかもしれません。
なお、BCM(事業継続マネジメント、Business Continuity Management)については前記事「BCP解説その1」の注釈をご参照ください。目次では「4-1 総論で述べておくべきこと」の下方にあります(バネのようなカラーイラストがある辺りです)。
★記事その1へのリンクはこちら
2.9 資金手当て
災害時・復旧時の資金をどのようにまかなうかは、書類を読んだ人へ示すために、担当部門や事前準備などを記載します。
資金調達は、たぶん事業所単位では難しく、法人経営者や財務経理担当が行うケースが多いと思われます。
行うべき事前準備の例としては、貯蓄や各種保険への加入、取引先銀行との関係性構築等が挙げられるでしょう。
資金繰りは事業所によってまったく異なると思いますので、この項での例示は割愛します。
ガイドラインなどの情報を参考にして記入するほか、自治体などからの公的支援の災害時連絡先(必要な情報の入手先)を明記しておくと、よいかもしれません。
【参考】BCP机上訓練の資料(介護事業者向け、医院向けのものをご紹介)
さて、計画策定について述べていますが、ここで担当者の分け方などを含む、平常時の机上訓練計画で参考になりそうな厚労省の資料PDFリンク先を3点、挙げておきます。
2つめと3つめは医療分野向け情報ですが、BCPのBCM運用の説明や全体像、「訓練に対する考え方」の基礎が、分かりやすく述べられています。
●介護訪問系 訓練編
厚生労働省 令和5年度介護BCP策定支援セミナー 机上訓練(訪問系)
https://www.mhlw.go.jp/content/001263072.pdf
●厚生労働省医政局 令和6年度 業務継続計画(BCP)策定研修事業 業務継続計画(BCP)策定手順と見直しのポイント
【策定編】
計画とマニュアルの違い、計画をまとめるにあたっての思考ヒントなどを、順番に検討する方法について例示
https://www.mhlw.go.jp/content/001336250.pdf
【訓練編】
運用するための机上訓練例を2件掲載
https://www.mhlw.go.jp/content/001336251.pdf
上記のような医院向け厚労省情報の、まとめ掲載先 URL
●医療施設の災害対応のための事業継続計画(BCP)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/infulenza/kenkyu_00001.html
BCP共通ひな形「4.他施設との連携」「5.地域連携」の記入
4.他施設との連携
4.1 連携体制の構築/4.2 連携対応
自治体などを通じ、自事業所と同様の、あるいは関連の事業を営む他社・他団体等と、平常時のうちにつながっておくことは、災害時に地域の顧客と事業を守る重要ポイントとなり得ます。
厚生労働省や自治体からは、複数の事業所や施設の間で共同訓練を毎年、行うよう推奨されています。
連携の検討→参画→ステップアップ、そして実際の連携対応(共同訓練も含む)の推進について、
①どのような体制を構築・検討しているか、②現在はどう進んでいるか。
これらを誰が見ても分かるように記録しておきましょう。
ひな形では利用者カードを作成し、連携先と共有できる形にしておくこと、また、連携先として施設、法人、医療機関(協力医療機関等)、社協、行政、自治会等が例示されています。
ただし、ひな形の利用者カードは主に「入居系施設の利用者が施設外に避難する場合」を想定しているようです。訪問介護では、地域特性や顧客の事情次第で、項目設定がいろいろと変わることでしょう。
よって、項目や連携先の記入例は、ひな形と別シート「補足14」の一覧表をご参照のうえ、自事業所に合う内容を構成してください。ここでの例示は省略します。
5.地域との連携
5.1 被災時の職員の派遣(災害福祉支援ネットワークへの参画や災害派遣福祉チームへの職員登録)
地域連携については、その地域の特性や実状に応じ「事業所としてできること」を、自治体と共に構築していくことが求められています。
ひな形の例では
・地域の災害福祉支援ネットワークの協議内容等について確認
・災害派遣福祉チームへの、チーム員としての登録を検討
となっています。
登録によって、災害時に地域を助け、逆に地域から助けられる機会も増加するとされ、事業所としての(複数の施設がある場合は事業体としての)登録は、国からも自治体からも推奨されている状況です。
昨今の災害事情から、自治体が「災害派遣福祉チーム(DWAT)」の福祉事業者登録を、積極的に推進している地域もあるようです。
何らかの地域連携登録をしている場合は、その旨と連絡先、体制等を明記します。
検討中である場合も「●●●への登録を検討中」などと記入しておき、見直しの段階で、地域の最新情報を収集して再検討していきましょう。例示は省略します。
5.2 福祉避難所の運営
ここは、自事業所が福祉避難所の指定を受けていた場合に、まとめておくべき情報を記入します。
ひな形に例示がありますが、地域によって情報が当然、異なってくることと思います。自治体の担当者などに相談のうえ、必要な情報を決めて、まとめるとよいでしょう。
そしてここもまた、「スタッフの誰が見ても分かる形」にしておくことが重要だと思われます。
運営ガイドラインも改訂されているようですので、下記も参照してください。例示は省略します。
●福祉避難所の確保・運営ガイドラインの改定(令和3年5月)https://www.bousai.go.jp/taisaku/hinanjo/r3_guideline.html
<更新履歴>
更新時に、どの部分の内容を変更したかを記入して情報を残しておくと、更新前との比較が容易になるとされます。
ひな形の例示を参考に要点を箇条書きしておきましょう。例は省略します。
固有ひな形シート「訪問介護編」の記入
(1)平時からの対応
別紙では、移動時・サービス提供時の被災を想定して、スタッフ全員で共有できる「利用者チェック表」 を作成、サービス時に随時携行するなどして、日常的に情報共有をはかることが求められています。
すでにご利用者の情報シート等がある場合には、それで代替することも可能です。たとえばケア21では、ご利用者の情報シートをシステム化して、事業所外で被災してもデータ確認できるように構築しています。
さらにひな形では、居宅介護支援事業所との連携、地域の関連機関との「良好な関係」についても言及されています。平常時に「どのような関係性が構築できているか」を、情報としてきちんとまとめておくことが、この表では求められているのでしょう。
ひな形の別シート【様式9】のフォーマットを、Excel行列変換して、下記に例示しておきます。

※上記、優先順位の「医療・介護」、「環境」、「避難」は、優先順位を決める際の基準項目であり、順番に意味はない。避難支援の欄には、独居→(独) 高齢世帯→(高) 日中独居→(日)と記載する。
注記を含め出典:静岡県介護支援専門員協会 から改変
https://shizuoka-caremane.com/page.php?pid=GR2ZA4P39S
(2)災害が予想される場合の対応
災害で、水害等の予報などが出て、サービスの休止・縮小を検討する時間的余裕がある場合には、
・居宅介護事業所と連携して利用者へ事前連絡・説明すること
さらに
・サービスの前倒し提供をすること
などが求められています。この項では、その基準やルールを定め、連絡先等とともに記入します。
例) 大雨による水害予報時:BCP策定基準に沿って対応を決定する。 下記の居宅介護支援事業所に連絡し、災害予測時間帯のサービス提供について情報共有し、 顧客へのサービス前倒し(後ろ倒し)は、まず顧客への事前連絡を下記と手分けし、素早く完了させる。 居宅介護支援事業所●●●● TEL:xxx-xxx-xxxx 担当/○○さん 居宅介護支援事業所◇◇ TEL:xxx-xxx-xxxx 担当/△△△さん
(3)災害発生時の対応
サービスの休止・縮小に伴う各種の連絡は、居宅介護事業所と連携して、必ずお互いが情報共有しながら変更の手続きを進めるよう求められています。
さらに「在宅避難(自家用車中での避難)におけるサービス」と「避難先でのサービス」、それぞれについて、事前に自治体等と相談する必要もあるでしょう。
この別紙があるということは、自事業所での災害時のサービス提供時期・提供内容等をなるべく明確にして、記録することが望まれているのだと思います。
ですから枠内には、確定したそれらの内容を記入していきましょう。例は省略します。
[参考資料]感染症BCP 発生時の対応手順 検討と決定
(その1と同じ内容を再掲載しています)
感染症BCPは、新型コロナウイルス感染(疑い)者発生時の対応事項をまとめておく計画書です。これもPDCAサイクルにてブラッシュアップする仕組み、BCMによる運用が、求められています。
新型コロナ感染症の、最初の発生時期を思い出せば分かるように、感染症発生時の事業継続は
「スタッフの感染を防ぐこと」
「利用者が感染した際に担当者等、対応を分けること」
「自治体への随時の発生報告・対応確認」
などに重点が置かれます。
第5類へ移行したのちも、新型コロナについては自治体への報告等が求められています。自然災害BCPとの違い等、各種の情報は、ガイドラインにまとめられていますので、参照してください。
厚生労働省 老健局発行のガイドライン
●介護施設・事業所における感染症発生時の業務継続ガイドライン PDF 2024(令和6)年3月
https://www.mhlw.go.jp/content/001073001.pdf
●介護現場における(施設系 通所系 訪問系サービスなど)感染対策の手引き 第3版 PDF 厚生労働省老健局 2023(令和5)年9月
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001149870.pdf
<監修>ケア21 BCP主管 おとがわ
介護施設ブランド
多様なシニアライフにお応えする有料老人ホーム「PLAISANT(プレザン)」シリーズ、
認知症グループホーム「たのしい家」、小規模多機能型居宅介護「たのしい家」。
ご利用者様の用途に応じて施設シリーズを展開しています。
TOP